しんと静謐な部屋に、彼の声がよく響いた。
煙草の香りが染み付いたシーツが、轟く鼓動を加速させる。
開け放たれたカーテンからはめいいっぱいに夕陽が溢れ、黄昏色に染まる空間。その中で影を落とす険しくも美しい顔を、ただ仰視することしかできない。
「俺が、澄香さんの助けになってるって言うなら、」
桜唇は薄く弓なりに、彼の片手が動く。
骨ばった指先が、もうずっときっちりと締めていたネクタイの結び目を緩める。
そこから覗くのは、きめの細かい白い肌、男らしい尖った喉仏、浮き出た綺麗な鎖骨。
遣る瀬無い笑みを浮かべながら私を捕える瞳には、確かな情欲の熱が孕んでいる。
見たこともない苛烈な色香が放たれて、一瞬で思考は飛ばされ、呼吸すら忘れて睫毛を震わす。
「……俺の事も、助けてくださいよ」
「ももせくん、」
「もう、この胸に抱える感情が苦しすぎて死にそうだから助けて」
懇願するような言葉と共に、はらりと艶めく金の前髪が垂れ落ちた。百瀬くんは、私の首元へと吸い込まれるようにして埋まる。
「っ、ふ、」
そっと、首筋に柔らかな熱が触れた。その刹那、きつく吸い付くような感覚。それが一つ、二つ、彼の熱気を帯びた吐息と一緒に幾度も降り注ぐ。
擽ったくも、熱く仄かな痛み。
初めてのその感覚に吐息が勝手に漏れて身体が熱を上げる。
恥ずかしくて自分がどうにかなりそうで、目をぎゅっと瞑れば目尻がじわりと滲む。
と、直ぐにその涙が冷んやりとした指先で拭われていく感覚がした。
つられるように瞼を開けてみれば、百瀬くんは眉尻を落とし妖美に小さく笑いながらも、やっぱりどこか切なげに私を見つめる。
「大丈夫ですか、」
彼の指先が次に触れるのは、私の頬骨だった。壊れ物のように、そっと柔らかに撫でられる。その指先が微かに震えているのが分かる。
「……って、聞いたところで、すみません、もう俺にはそんな気遣える余裕もないです」
「ん、っ」
きゅ、と胸が切ない悲鳴をあげたと同時、唇は荒々しく奪われる。重なる熱に深く侵されていく。



