苦しい胸の中で言葉を探して、でも直ぐにそれを中断し、唇の噛み締めを解くだけにした。
今、彼に、私が持ち合わせているどんなやさしい言葉を掛けてみても、それはぜんぶ陳腐で安っぽい響きになってしまいそうだったから。
百瀬くんに倣って静かに外を眺める。
広がる夕焼け空の景色は、今まで散々嫌い、身体は勝手に震えていたはずなのに不思議と怖さはなかった。
ただ無性に、延々と涙は込み上げてくる。
うっかりまた溢れる前に視線を落として、今度は窓枠についた互いの両手を見つめた。
「(………やっぱり百瀬くんの手、好きだな)」
無限に湧き上がる想いをなぞってみて。
さっきまで繋いでいた筈なのに、拳一つ分離れたその距離に、何故かもう寂しさを覚えてしまう。
「(……繋ぎたい、)」
そんな自分が恥ずかしくて、でもソワソワと落ち着かない心には逆らえなくて。
徐に、自身の指先を、窓枠に沿って彼の方へと、すうっ…とさり気無くずらしてみる。
すると思いのほか勢いづいて、ちょん、と私の小指と百瀬くんの小指がぶつかってしまった。
あ、と見上げた先で彼と目が合う。
驚いたように丸くなったその瞳の中は、夕陽のおかげで無数の燈火が揺らめいていた。
その彼らしい淡く優しい光が煌めく様に、即座にキュウと胸の中心部が鷲掴みにされる。
「(………なんて、言えない。)」
やっぱり情けなくも頬に熱が上るのを感じて、慌てて手を離した。
その手で苦し紛れに横髪を耳にかけながら、再び夕陽へと顔を逸らす。
「澄香さん…?」
「……あーっと……“ たがもやき”って、何か分かりますか」



