群衆も私も、揃ってケンちゃんの威勢に視線を奪われていた。
その隙に、頬に冷たさがやさしく添えられた。
大きな手のひらで包まれ自然と顔を戻された私は、再び彼を見上げる。
そこにはもう不安げな色はない。
ただ一層に澄み渡る青が、丁寧に私を見下ろす。
「帰る前に、攫っていいですか」
そして、彼はふわりと笑った。
「澄香さんと一緒に行きたいところがあって」
儚さはそのままに、まだ仄かに赤い目尻を下げた穏やかな表情に我にかえったように好きが溢れ、また胸が熱くなる。
百瀬くんは聞いたくせに、言葉をつまらせる私を待たずして迷いなく私の指先を攫う。
静かな強制で手を引かれ、群衆の目を盗んだその一瞬にこっそりと。やさしく連れ去られるような形で、私達は煌びやかな外界から抜け出した。



