じんわり、勝手に体温が上がったような気がした。
嗚呼、もうやだ。心の重心の置き場がない。
断るの一択なはずだったのに。
不意打ちの柔らかな表情、予想外の言葉に、グラリと心を揺さぶられ。彼の妙な色気に、私の気持ちがどこかに攫われてしまいそうだった。
視線を落とし、小さく息をする。
———女性が苦手なんじゃないですか、そう聞こうと思った。でも、先ほどのケンちゃんの言葉が胸中をかすめる。
『彼、行く当てがなくて困ってたんだもの———』
同情とはまた違う。
どうしてか、喉が塞がるような切なさを覚える。
男は嫌い、だからといってデリカシーのない質問をしていいわけじゃない。何か特別な事情があるのかもしれないし。
睫毛を伏せ、開きかけた唇を一文字に結ぶ。
この頭の中に渦巻くハテナをどう聞こうか、少し考えている間、彼は静かに私の言葉を待っているようだった。
「……元々、芸能に興味があったんですか」
当たり障りなく漸くたどり着いたその問いは、また面接官のようになってしまった。
でも、気になった。女性が苦手なら、どうしてわざわざ関わるような道を選んだのだろうと。
もう一度見上げてみた先、彼はまたキョトンとして。
それから、ゆっくりと長い睫毛をしならせる。
「いや、全く。ただ、」
言葉と一緒に、微かに睫毛が震えた気がした。
「欲しい人がいるんです」
「……ほしい、人…?」
思わず聞き返した私に、彼はそっと視線をあげる。
そして、頷く代わりに小さく唇の端をあげた。
垂れ目がちな目元に、優しげな皺ができる。
青みがかったグレーの瞳が、まるで眩しい光でも見るように艶を帯びて輝く。
「今までの全てを覆して、どうしても欲しいんです。その人が」
一瞬、息ができなくなった。
どうして、だろう。
私のことを言っているわけではないのに。
"その人"なのに。
どうしてか、"あなた"に聞こえてしまった。
馬鹿だ、彼があまりにも真っ直ぐな瞳をするから、まるで私に言っているように聞こえてしまった。
頬にほんのり熱を持ち、恥ずかしくなって逃げるように咄嗟に俯く。慣れないことをしていて、私の頭はおかしくなってしまったのかもしれない。



