目を逸らすように下を向く。
視界に入るのは何も考えずに急いで足を突っ込んだ、子供達と遊ぶ時に履いていた砂埃まみれのスニーカー。
眉尻を垂らし、恥ずかしさに自嘲的な笑みをほのかに浮かべた。
「(……今は、空気読もう)」
意気込んで無我夢中で来たくせに、今頃になって理性的な自分が顔を出して。
あとで改めて、落ち着いた時に電話してみよう、いまは兎に角この場を壊してはいけない、
なんて、ケンちゃんが笑った通り。
この期に及んで冷静ぶって、余裕ぶって、格好つけて。
ツンとした鼻の痛みになんか気づかない振りをして、眩い世界から潔く背を向けた。
私がいる世界は映画でも、漫画でもない。
いくらケンちゃんが背中を押してくれたからって、ドラマチックに愛を叫ぶなんて、現実では迷惑でしかないのかもしれない。
恋愛に疎い自分を納得させるようにして、無理矢理な逃げの一歩を踏み出した。
しかし、唐突に。
背後が水を打ったように静まる。
つられるようにして振り返れば。
「へっ」と、誰かの頓狂な声が、水面に落ちるようにして響いたような気がした。
それが波紋のように幾重にも輪を描いて、群衆が一斉に息をのむ。
隣の受付の人も、言葉を忘れたように立ち竦み。
私も、振り返ったその先で、呼吸を忘れる。



