まともな声も出ないまま、再び賑わう方へと目を向ける。
観覧者は圧倒的に女性が多く、挙って簡易的に設置されたパーテーションの奥を必死に覗き見しようとしていた。
「(……どうしよう…)」
途端に、たった数メートル先の、その大勢の後ろ姿がとても高い壁のように見えて。
会いたいと、ただその一心で飛び出してきたのに、急に迷子のようになって足が竦む。
……もしかして、私は遅かった?
百瀬くんは、百瀬くんのままでいてほしいと、
ただ自分の中で密かに望むだけで、幾らでもタイミングはあったのに伝えられていなかった。
もっと早くに言葉にして、ちゃんと彼に伝えれば良かった。
菊乃先生といえば、芸能界に疎い自分でもその名前だけで凄い人だと、漠然としてでも分かる。
これから、彼はそんな有名な人に写真を撮られ、多くの黄色い声を浴びて、私の知らない世界で輝いていくのか。
私に真っ直ぐ捧げてくれた美しい瞳は、今から世界に見つかってしまうのか
後悔と、切なさ。感じたことのない胸の苦しみが迫り上がって喉を痛いほどに圧迫する。
「そろそろ始まりますね」
受付の女性の浮き立つような声が合図のように、パーテーションの影から次々とスタッフが出始める。
それでも、私はただ唇を強く引き結び、別世界を眺める事しかできなかった。
自分の嫌な鼓動と比例するように、拍手が徐々に大きくなる。
その中で、宍戸さんが姿を現す。
すぐその後ろを見た事のある綺麗な女性のモデルさん、そして最後尾、一際自信に満ち溢れたオーラを纏う菊乃先生が大きな拍手を浴びながら登場した。



