嗚呼、そっか。そうだった。
「………狡いよ、ばか…」
『あら、この期に及んでツンなの?ほんと最高な女ね』
どこか嬉しそうに声を立てて笑うケンちゃん。
その安心感を覚える音を耳に、もうこれ以上、涙が溢れないように震える吐息をゆっくりと吐きながら再び瞼を閉じた。
何を恐れていたのだろう。
私にはヒーローが居てくれる。何も難しい事を考える必要なんてなかった。
最初から甘えれば良かった。
また、私は間違えるところだった。
「……ケンちゃん、」
『うん?』
「……ありがとう」
『ふふ、うん、こちらこそ』
「……あのね…」
『うん、なあに?スミちゃん』
まるで私の心を労り、愛でるように聞き返してくれるその声に、私は、漸く解く。
今までずっと、強がりばかりを吐いてきた唇を。もう何度も噛み締めてばかりだった唇を。
「………百瀬くんに、会いたいっ…」
涙で掠れる切実な声が、静けさにか細く響く。熱い喉奥から絞り出したその言葉はシンプルで、でも人生で一番衝動的で感情的だった。
そんな私に、ケンちゃんは分かっていたかのようにふっとやさしい息のような笑声を漏らして。
『これから事務所のカフェスペースでね、宍戸に無理矢理セッティングされた撮影に参加する事になってたんだけど、』
きっと、次あの美しい青の瞳に映ってしまったら、我慢できない。自分の欲が溢れてしまう。
けれど、もう、映りたい。映して欲しい。
彼の瞳を真っ直ぐに、もう息苦しいほどに胸いっぱい詰め込まれた愛を吐きたい。
精一杯、伝えてみたい。伝えよう。
最後まで聞き終える前に、私は深い夜から目覚めるように跳ね起きた。



