焦がれる吐息






『……ねえ、スミちゃんは知ってた?』



———そして、優しげに語りかけられるその言葉を皮切りに、心が震えてゆく。



『施設の調理場で、とても真面目に働く青年がいるの。しーちゃんって、子供達に慕われて。彼はね、家庭の味を知らない子供達の為に早朝の仕込みから深夜の片付けまで、一度も休む事なく丁寧にこなすって施設長が言ってたわ』


返事の代わりに、静かに目蓋を開ける。


ケンちゃんは、あくまでも“しーちゃん”の話をする。それでも、ちゃんと理解できる。十二分に伝わる。

“しーちゃん”と“百瀬くん”

敢えて目を背けていたその結び目が確かなものとなって、唇を痛いくらいに噛み締める。

滲む天井に次浮かべたのは、私の知っている大切な手だった。

初めて見た時、痛そうだなって、でも好きだなって、ときめいてしまった赤切れた手。私があげたハンドクリームの香りを漂わせ、絆創膏を健気に貼り続ける指先。

その手で作ってくれた一つ一つの料理を思い出してしまえば、底知れぬ恋しさが胸を苦しめる。



『毎日毎日、仕事だけの生活だったそうよ。でもその青年はある日、一人の女の子に恋をしたの。プレゼント片手に施設に通う姿をずっと見てたって』

「、」