焦がれる吐息





「紫月くん、もしかしたらスミちゃんの帰りをずっと待ってたんじゃないのかしら?」


「……私は、もう会えない」


会わない、じゃなくて、会えない、か。

その言葉の前に“会いたいけど”が聞こえてくるのは気のせいなんかじゃない。


「紫月くんのことが好きなのね?」

「……ちがう」

「スミちゃん、あのね、」

「ぜんぜん、好きじゃない」

アタシの言葉を遮り、絞り出すように紡がれた震えるか細い声に彼女の感情が伝染したように胸がぎゅうと痛くなる。

いま、どんな顔をしているのだろうか。


この子は嫌な事や辛い事があった時、簡単に泣きついてくれるか弱い女の子じゃない。

ただひたすらに自分の殻に閉じこもって、感情を殺してしまう子だ。

7年前、母親の恋人にストーカーをされた挙句、襲われたあの事件の時もそう。

当時、たまたま自分がその現場に鉢合わせる事ができたから未遂で済んだものの、その場面は悲惨な光景だった。

地面に押し倒され、ナイフを持った男に跨がれて涙を零す彼女の姿は嫌でも目に焼き付いている。

そしてその後、母親から盗んだ煙草を狂ったように吸ってはえづいている光景も。

それでもスミちゃんは、決して自分の口から何があったかは教えてくれなかった。男から大量に送りつけられた写真の事も含めて何ひとつ。

それは母親の心を守る為だという事は、言われなくてもすぐに分かった。

大切な人を傷つけないように自分の心を犠牲にして強がる、それがスミちゃんだ。




「紫月くんの事がそんなに大切なんだ」

「………べつに」

「ほんと、強がりさんなんだから」



困った子だと笑いながらも、かわいくてたまらないと静かに溜め息を吐いて。


漸く、ゆっくりと重い腰をあげた。





———「さあさあ、シナリオの書き直しよ。美しいラブストーリーにね」