焦がれる吐息






衣擦れの音がして、瞼を上げれば彼の手があがってくるのが視界に映る。


その指先の行方がもうわかってしまうから、震える唇をむりやりに開いた。


「……治療、なんです」



だいすきな指先が、私に触れる前に。



「いままで、治療だったんです」


いつものように、頬を、目尻を、やさしく撫でてもらう前に。



「百瀬くんと一緒にいたのは、ただ、ケンちゃんに頼まれたからで、お互いの異性恐怖症を克服するためなんです」


震える声に気づかれないように強く嘘を吐く。

中途半端にとまる愛しい指先に目を逸らし、大好きな声を聞く前に、彼を守る線を引く。



「だから、私達の関係は、それ以上でもそれ以下でもない。この先も、」



……その先はもう喉が、心が、痛くてどうしようもなくて下唇をつよく噛んだ。

これでいい、これでいい、昨日から何度も言い聞かせてる言葉をまた強く心で唱えるのと一緒に頬が濡れた。


私に触れようとしていた手が、ぶらんと力なく落ちる。

広い胸を突っぱねている自分の手も、静かにおろす。

互いの手は虚しくひとりで揺れて、同じくらいに震えていた。

自分で言ったくせに、心が抉られる。

私のいない未来で輝く百瀬くんを想像するだけでこんなにも苦しいのに、それを実際目にしてしまった時、この苦しみは何倍に膨れ上がるのだろう。


彼の幸せな未来を願っているくせに、いまのままの百瀬くんでいてほしいと望んでしまう私は最低だ。