焦がれる吐息






𓂃◌𓈒𓐍


燻し銀のような薄白い明るみが、静まり返った住宅街を包み込む。

針のように冷たい空気に両腕を摩りながら、ゆっくりとヒールの音を響かせた。

昨夜はずっとテンション高くおもてなしをしてくれた尾崎に、もうこれ以上は気を遣わせたくなくて早々と帰宅してきた。

尾崎の家を出たのが6時半だから、きっと今は7時くらい。曖昧なのは、昨日の昼間から携帯の電源を落としたままだから。


「(……百瀬くん、まだ寝てるかな)」


すんと吸い込んだ早朝の新鮮な空気でさえ、なんだか心にヒリッと痛みを与えた。

ケンちゃんが返ってくるまであと数日、私はどんな顔をして彼と過ごせばいいのだろう。

百瀬くんと出会う前の自分にはもう戻れない。

でも、戻らなきゃいけない。

宍戸さんの言葉が頭の中で何度も邪魔をしてきて、大切な感情を縛り付ける。

いつの間にか俯きながら歩いていれば、視界の隅に見慣れた花壇が映り込んだ。慌てて顔をあげれば、もう自分のマンションは道路を渡ってすぐ向かい側。

危うく信号無視で横断歩道を渡りそうになっていて、ほっと肩を落としながらエントランス前に視線が流れる。

と、飛び跳ねたばかりの心臓がまた大きく跳ねた。


「(なんで、)」


瞳に触れた瞬間、すぐに分かる。

エントランス前にしゃがみ込む、黒色のシルエット。

折った膝に腕をついて、項垂れるように深く俯くその顔は見えない。

けれど、私の焦がれている人だってすぐに分かる。

いつからいたんだろう、どのくらいの時間この冷たい外気にあたっているんだろう。

「こんな所でどうしたんですか?」なんて、もう聞かない。

聞かなくても分かってしまう。  


『……分かりきったこと聞かないでください』

『心配しました、かなり』


いつかと同じ、マンション前で待っていてくれた彼の言葉が切なく心を撫でてきて、瞼が熱く痙攣する。