そして百瀬は最後、俺に触れた手の平に視線を落とすと、真顔で「汚な」と零して夜の闇へと溶け込むように去っていく。
その後ろ姿が見えなくなった時、漸く「はっ」と乾いた笑いと共にまともな息ができた気がした。
「(……俺より歪んでんじゃねーよ)」
いつもきっちり締めているネクタイを緩める。その手が笑えるくらいに震えるから、肩を落とした。
誰かに本気で殺されるかもしれないと思ったのは人生で初めてだった。それも、たかが20歳のクソガキに。
はあーと吐いた孤独の溜め息が、冷えた外気に虚しく消えてゆく。
と、徐に会社用の携帯が鳴った。
届いたメールを確認すれば、例のファッション誌の撮影に関しての確認事項。
「(最後に悪あがきはさせてくれ)」
女神の泣き出しそうな顔を片隅に、今更胸を痛めながら。
それでも4年分の恋心をのせた指先は止められなかった。



