さり気なく口悪くなった宍戸に頬を引き攣らせながら「…まあ、それはね〜…」と、片手はもう一度手帳へ。
パラパラパラと未来を捲り、その途中で挟んでいた一枚の写真を掲げる。
まさに今や売れっ子写真家の菊乃先生が事務所に遊びに来てくれたときに、遊び半分で撮ってもらった一枚だ。
モデルは、美しき青年。
俯くようにして気怠げに立っているだけでも、美しい。
ポージングの基礎なんてなくても、ただただ、美しい。
特別に着飾る必要なんてない、最高の素材。
菊乃先生も彼に一目惚れで上機嫌で撮ってくれた。
でも、全然だめね。いくら初めての撮影だからって、表情も瞳も雰囲気も完全に死んでいる。
理由は分かっている、女性カメラマンだから。
そして、カメラ後ろで女性社員がキャッキャッと熱烈に見学していたから。
"頭抱えたくなるほど女が苦手"
どうしてかは、分からない。
彼は女性からの視線、特に好意的な眼差しに対して、まるで心を閉ざすように静かに俯き距離をとろうとする。
嫌悪感、というよりも、身に染みついた拒否反応のように見えた。
でもね、
「大丈夫よ、治療するから」
うちの可愛いスミちゃんと一緒に過ごしたら、心も表情も少しは解れてくれるでしょう。
『治療、とは?』と訝しげな宍戸の声を遠くに、———それにしても、と写真の彼をじっと見つめる。
握手すら交わせないのに、どうして女であるスミちゃんの家の鍵をすんなり受け取ってくれたのだろう。
そして、まさか本当にスミちゃんの部屋に自ら赴くとは思わなかった。
よっぽど施設を出たかったのか、あるいは、アタシの期待に頑張って応えようとしてくれているのか。
どちらにせよ、なんて健気でかわいい子。
ぜったい光の世界に連れていってあげるわ!ぶちゅっと平たい彼に熱いキッスを贈る。
そして、目の前の窓から広がる、澄んだ空、滑走路を見遣る。
「さあ〜てと、そろそろ時間よ!会社のほうは頼んだわね」
手元を片付けながら「じゃあ、」と通話を終わらせようとすれば「あ、社長…!」と宍戸にしては珍しい焦ったような声が響く。



