「昼間に本人からも聞いたぞ。本当はずっと迷惑していたそうだ。社長に言われて仕方なくお前と一緒にいる。それ以外の感情も理由も何もない、早くお前に女を克服してほしいってな」
口から濁流のように溢れるのは勿論、嘘だった。
二人がどれほどの仲だったのかは知りたくもないが。
『百瀬くんとは別に何もないです』
涙を溜めた濡れ輝く瞳、震える睫毛、そして熱い想いを押し堪えるような憎いほどに可愛く健気な表情に、二人は引き裂かなければならない仲だという事は把握したから。
さあ、造りもののような顔はどう崩れるか。
もし女神との仲が深まっていたのなら、何も知らずに過ごしてきて裏切られた気持ちになるか。
嘆くか。怒りを露わにするか。
「どうだった?社長が用意した疑似体験は。澄香さんのような女性と過ごせたんだ、少しは女の良さが分かった、」
わざと神経を逆撫でるように問い掛ける、その時だった。
言葉の途中、百瀬紫月が動いた。
とん、と、自身の唇に細い人差し指がのる。
触れる酷く冷たいその指先に心臓が跳ね上がり、目を大きく見開いた。
間近に迫る百瀬は、俺の口を塞いだまま緩やかに首を傾げて。
妖美に目を細め、ゆったりと笑みを浮かべる。
「うるさいんですけど?」



