焦がれる吐息





「あ、じゃあ先に連絡をっ…」


車内の唯ならぬ冷気に運転手は慌ててハンドルを切り、路肩に一時停車させた。

社内携帯を弄りながら「百瀬紫月、百瀬紫月…」とテンパるように唱えられるその名に心底殺意が芽生えて、ガンッ!と今度は運転席を蹴ってから窓の外に気を散らす。


しかし邪魔をするように胸ポケットで携帯が震えた。


【アタシが帰るまで余計な事するんじゃないわよ】


画面に表示されたのは、社長からの新着メッセージ。

それに冷ややかな鼻笑いを鳴らして、無視を決め込み窓に頬杖をつく。


「(余計な事をしたのはどっちだ)」


先程の社長との胸糞悪い電話を思い出して、更に怒りが煽られる。

女神に死刑宣告をされた後、すぐに社長にどういう事かと問い詰めるように電話をすれば、返ってきたのは最低で最悪のエキセントリックな内容だった。

百瀬紫月と澄香さんが関わっていることは勿論、


“荒療治” “疑似彼女”


そして、“同棲”


自分が知らなかった間に実行されていた予想を遥かに超えるパワーワードに血管がぶち切れそうになったから、最後は碌に社長の話も聞かずに通話を切った。


「(まさか女神があの男と一つ屋根の下で暮らしていたとは……)」


何が治療だ。男を克服したいのなら俺が幾らでも協力したのに。一つ屋根の下、俺が女神と一緒に過ごして、男は怖くないとやさしくお伝えして、料理をしたりテレビを見たり、何気ないひと時を過ごすうちに段々と打ち解けていって……


「(くそっ…!)」


遣る瀬無い妄想を膨らませてしまえばジーンとネオンがぼやけるから、眼鏡をずらして目頭をつまむ。