「スミ先輩、すみませんっ…わたし、もしかして余計な事を…」
「別に?」
感情を飲み込んで、強がって、取り繕う。
ほら、得意でしょ?そう胸の酷い痛みを無理やり捻じ伏せて。続いて店を出てきた尾崎に振り返り、小さく笑む。
「それよりさ、尾崎、今日泊めてくれない?」
今、ちゃんと笑えているだろうか。自信のない瞳を伏せてスマホを取り出した。
「え、でも、これから待ち合わせしてるって」
「いいの」
戸惑う尾崎を遮り、指先を動かす。
すぐに目に飛び込む“百瀬紫月”と新着メッセージに、痛む喉からまた遣る瀬無い感情が迫り上がってくる。
タップするその指の先まで震えていて、情けなかった。
【今、駅着きました。待ってます】
ぼやぼやと滲むシンプルな文をゆっくりとなぞって、ふう、と震える息を細く吐きながら【ごめんなさい】の6文字を打つ。
飲み会の日に断った時よりも格段と心が枯れていく。いってらっしゃいと見送ってくれた不満そうな顔が、親指を重くする。
躊躇う指で送信を押した瞬間、すぐに既読マークがついたから返信が来る前に急いでスマホの電源を落とした。
「……これでいいの」
これでいい。
百瀬くんにとって、私との一時の関係よりも、輝ける一生のほうが大切だ。
もう、彼には詫びしい影を落としてほしくない。
誰よりも美しい青い瞳にはこれからいっぱい光を浴びてほしいから。
だから、この恋がもし想いが通じ合っている蕾だとしても咲かせてはいけない。
私には、彼と離れる事でしか、自分の好きを封じ込める事でしか、彼の守り方が分からなかった。



