焦がれる吐息





「(……未来…)」


“ どうせアンタが羽柴さんのこと誘惑したんじゃないの?あーあ、お母さんやっと幸せになれると思ったのに。澄香のせいで全部台無し、お母さんの未来壊さないでよ”


いつかの古傷がグリッと抉られて、痛みを呑み込むようにこくりと喉を動かす。


静かに視線を逸らして、一目惚れしたエプロンをラックに掛けた。


ハンガーを握りしめる指先の感覚が分からなかった。


「……百瀬くん、とは、」




『料理、嫌いじゃないんで。まだなら作ってもいいですか?ていうか、作りたいです。澄香さんに』

『俺のことを考えててほしいです。たくさん考えて、俺を意識してください』

『一人になんて、させるわけないでしょ。こんなに可愛い人を』

『禁煙しませんか、一緒に』

『でもほら、もう涙止まってる。澄香さんは俺の事だけ考えてればいいんです』

『澄香さんにだけ、感情も欲もうまれるんです』

『……離れたくなかったから』












“ 早く会いたいって思ってる事、忘れないでくださいね”




幾度もやさしく零してくれた甘い言葉の雫が、ひとつひとつ、じんわりと頭いっぱいに広がって。


「(私の中、ほんと、百瀬くんばっかりじゃん)」



どの瞬間の彼が蘇っても、好きの二文字しか浮かんでこなくて自嘲的な笑みが小さく漏れた。


穏やかな店内に「せんぱい、」と尾崎が心配そうに呟く声が落とされる。


ひとつ、節目のように重い溜め息を吐いた。


そして、精一杯の強がりを込めて宍戸さんを鋭く見上げる。

熱い下瞼を無視して、口端をゆったりとあげた。