『———社長、話に集中してください』
「はあ〜ん、せっかくいま美しき余韻に浸ってたのに〜あのね、アタシがどれだけ苦労して口説き落としたか知ってる??」
ピシャリとした宍戸の声で醒めてしまい、顔を顰める。
彼と出会ってからこの数ヶ月、アタシは本当に頑張ったのに。
電話もメッセージも当たり前のように応答がないから、何度も施設へと通った。
かと言って、昼間に施設内をウロウロしても子供達を怯えさせてしまうから、ちゃんと節度を保ちながら。
彼が退勤する夜、ゴミ捨ての一瞬の隙をついてはアタック!!それでも、一度も声を聞けなかった。なんなら、目も合わせてくれなかった。
彼は終始俯き、無言でスタスタ。
これは一体何年かかるのお?!と、しょんぼり肩が落ちはじめた時だった。
こうなったら、もう最終手段!
【安定した収入が得られるまで、生活費10割の資金援助を約束します!!どうか話だけでも!!】なんて、怪しい詐欺メールのようなメッセージをダメ元で送ってみれば、初めて既読マークがついた。
ええ!と驚き凝視した画面には、ピコン、とひとつのメッセージ。
【はい】と、唐突に二文字だけ返ってきた。
突然、本当に突然、どうしてか急に幸運の女神様が微笑んでくれたのだ。
きゅるるんッ…!と全身に喜びが煌めき。その時、おもわずスマホを抱きしめ社長室で一人飛び跳ねてしまった。
もしかしたら相当、お金に困っていたのかもしれない。まあ金目当てだろうが、なんだっていい。
アタシのラブアタックが漸く届いた歴史的瞬間。
諦めない心って、大事ね。
「アナタもごちゃごちゃ言ってないで、賭けてみなさいよあの子に。それ以上の対価が絶対にあるわ」
ふふんと胸を張ってやれば、宍戸は『……恐れ入りますが、』と呆れたように口にする。
『彼の失礼極まりない態度をお忘れですか』
「んん?何よそれ」
『今や日本を代表する女性写真家、菊乃先生のほうから差し出してくださった手を取らなかったんですよ、あのクソ餓鬼。いくら女性が苦手だろうが握手すら交わせないようでは、話になりません』



