焦がれる吐息




私宛ての封筒……その言葉に、途端にぞわりと全身に鳥肌が立ち、胃が雑巾のように絞られて痛くなる。

宍戸さんは何一つ悪くないのに、脳裏に嫌なほどに刻み込まれている“薄ピンクの封筒”が私の身体を縛っているようだった。


「……すみません、確認する前に失くしてしまったみたいで」


もう、宍戸さんの顔を見る事ができなかった。視線を落として発した自分の声は、他人事のように無機質に床に落ちる。


「え、あ、そうなんですか……いや全然気にしないでください!あの、封筒の中身はクルージングのペアチケットでして…」

「……」

「その、実は澄香さんをデートにお誘いしたく渡しました…!」

「……」

「宜しければ是非、僕とデートしていただけないでしょうか?!このような場ですみません、ですがずっと前から澄香さんを想ってきた身としましてはこのチャンスを逃したくないんです!」



まるで焦っているような力強い声音。

顔を見なくとも本気だと分かる並べられたストレートな熱い言葉に、私の心は逆に急速に冷えていく。

嗚呼、気持ち悪い、そんな冷酷な単語で頭も心も埋め尽くされてしまう感覚は久しぶりだった。

この人に女として見られていたのか、そう分かってしまった時点で、表情が、心が死んでいく。

目の前にいる人を男だと認識してしまった時点で吐き気さえしてしまう私は最低だ。


ほらね、ケンちゃん。

治療なんて意味がなかった。

私は、全然治ってない。

百瀬くん以外、私は死ぬほど男が嫌いなままだ。


嫌な形で改めて分かると、澄み渡る青い瞳が余計に恋しくなった。

私は、あの瞳に映っている時間が一番しあわせだ。


「ごめんなさい」


彼の事を想えば、俯いていた顔は自然とあがって前を向けた。


眼鏡の奥の真剣な眼差しを見つめ返し、はっきりと告げる。



「私、とても好きな人がいるので」


男には一ミリの期待も隙も与えてはいけない、そう、過去から学んでいた。

何より彼への想いが胸を占領していて、もうほかの誰かを考える余白は私の心にない。