焦がれる吐息





「……宍戸さん、」



眼鏡越しに大きく目を見開き立ち尽くすその人に、私の目も少しばかり大きくなる。

まさか、こんな場所で会うなんて思いもしなかった。

いつも通りスーツ姿のその手には空っぽの買い物カゴが持たれていて内心驚く。

仕事ばかりのイメージだったから意外だった。

「な、え、あ、まさか、こんな所でお会いできるとは、」

「……ですね」

「あっと、えーと、澄香さんもお料理を……?」


酷く動揺している様は、いつもの冷静沈着な副社長の姿とは少し違う。

明らかに頬を赤らめ、きょろきょろと視線を彷徨わせ。

そして宍戸さんの視線が行き着く先は、私の手元だった。


「素敵なエプロンをお持ちですね……ん、え、紳士物…??」


メンズサイズのエプロンを凝視して、とても分かりやすくフリーズし始めた宍戸さんにカッと頬が熱くなり私も視線を落とす。

百瀬くんに……だなんてバレてしまったら気まずい。それに、彼との関係はケンちゃんにも強く口止めされている。

どう誤魔化そうかと瞳をうろうろさせれば、宍戸さんは「あ!」と珍しく大きな声をあげた。

「なるほど、社長にですね?」

「え…?」

「そのエプロン、社長にプレゼントされるんですよね?さすが澄香さん、お優しいですね」


再び見上げたそこで、まるで期待に満ちたような輝く瞳と合う。微笑みを浮かべたその表情からは、どことなく肯定を求める圧を感じて勝手に身体が萎縮したような気がした。

伏し目がちに「まあ、」とちいさく答えながら、エプロンを握り締める。

何となく、胸騒ぎのような、こころに静かな細波が立ち始めて。

早くこの場から立ち去ろうと「じゃあ」と口を開こうとすれば、先に改めて呼ばれてしまう。

「澄香さん」と、どこか緊張気味に、熱っぽく。


「…… 先日は分かりづらくて申し訳ありません。封筒、見ていただけましたか?澄香さん宛ての」


真っ直ぐに向けられる眼差しは、私が苦手な瞳だった。