焦がれる吐息





「……かわいい」


思わず小さく漏らして手に取ったのは、デニム素材の黒色エプロン。シンプルなデザインだけど、白色のステッチが可愛くて秒で一目惚れしてしまった。

つい、百瀬くんに似合いそうだな、なんて思っていれば。


「本当だ〜かわいい〜あ、一緒にエプロン着てお料理とかどうですか?お二人がエプロン着て並んでるところぜっっったい麗しい!!」


惚ける私の前に、尾崎は先ほど勧めてきたエプロンをまた持ってきて。ふにゃあーと得意の笑みを携え無邪気にはしゃぐ。

「彼にプレゼントしちゃいません?わたしもスミ先輩にプレゼントします!」

「え、」

「飲み会のお詫びって事で!」

「別に、さっき奢ってもらったから」

「わたしが着てるところ見たいんですもん〜という事で決まり!先にお会計いってきまーす!」


疾風の如く。エプロン片手に尾崎はるんるんっとスキップしそうな勢いでお会計に向かってしまう。

唇を尖らせながらその後ろ姿から視線を落とし、手にしたメンズエプロンを見つめる。


……お詫び…そういえば、私も、


『……先日のお礼というか、お詫びというか…ちゃんとしたいので、考えておいてください』


たしか、宍戸さんと話していた最中のこと。

電話で百瀬くんに伝えたまま、ちゃんと実行できていない事を思い出す。

半ば強制だけれど尾崎からプレゼントしてもらえるのは普通に嬉しい。



「(男の子って、エプロンとか着るかな……)」


彼も喜んでくれるだろうか、なんて。

目元を穏やかに緩めて「嬉しいです」って言ってくれる表情を思い描いて、勝手に胸をふくらませていたときだった。





「澄香さん…?」



———浮かれた身勝手な夢から覚めるのは、呆気ないほどに一瞬で。

自分がどれほど浅はかだったのかと現実を突きつけられたのは、虚しいほどにあっという間だった。