「何言ってんの、ばか」
急いでそっぽ向いて、すたすた隣のラックに逃げる。
未知なる如何わしいワードに、頬どころか頭からぷしゅうと熱い蒸気が出そうだっだ。
前まではこういうくだりの話は嫌いだった。他人から性的な目を向けられるのが苦手だったから。
でも彼の事を想っている今は、以前のような不快感はなくて。
ただただ、変な汗と恥ずかしさしかない。
自分でも気づかない間に、百瀬くん限定で治療がすすんでいるらしい。
それでも昨日ファーストキスを迎えたばかりの女には、このきゃぴきゃぴ女は刺激が強すぎる。
「スミ先輩ぴゅあ〜ますますかわい〜」
「……うるさい」
茶化す声を背に、落ち着かない瞳には“men's”と書かれたPOPが入る。
落ち着いた色味のエプロンが並ぶここはどうやらメンズのコーナーらしい。
「お、男子のエプロンもお洒落ですね〜!イケメンさんって料理されます?」
「……うん、凄い上手…」
「ほえ〜あの顔で料理も出来るんですか?!最強じゃないですかっ!いいなあ〜料理できる男子」
隣りに並んだ尾崎は感心したように目を輝かせてくれて。自分が褒められてるわけじゃないのに、胸が擽ったくなる。
そう、百瀬くんが料理してるところ、凄くかっこいい……なんて内でこっそり惚気てしまう。
包丁を綺麗に握りながら真剣に俯く顔、袖を捲って露わになる筋がでた逞しい腕。
綺麗に菜箸を扱う、骨張った長い人差し指と中指。
そこに貼られた、私があげた絆創膏。
とんっと、軽やかに卵焼きをひっくり返す飄々とした美しい横顔とか。
挙げたらキリがないくらい、胸がキュンとする所が沢山あって。私は、料理をしてる百瀬くんを見てるのが一番好きかもしれない。
初めて料理を作ってくれた日や、今朝の彼を飽きずに頭に浮かべながら、ふと一着のエプロンが目に留まる。



