そして、なにより。
紫煙を燻らすその横顔が、なんとなく澄香と重なって。
胸がきゅうっと悲鳴をあげた気がした。
『そこのキミ!モデルに興味ない…っ?!』
そのとき思わず叫んでいた言葉は、そこらへんのスカウトマンが口にしていそうなありきたりな台詞だった。
情けない、もっと洒落た言葉でお誘いしたかったのに。
異様な美しさに、いつもの余裕なんて簡単に削ぎ落とされていた。
彼は驚いたように振り向く。
頼りない外灯の光の下、ふわふわの金色の前髪から覗いた、妖しく煌めく青色がかったグレーの瞳。
ハッと息を呑み、ハートを射抜かれた瞬間だった。
刹那的にズッキュン!と、さらに深みに堕ちた音、未知なる胸の高鳴りを覚えた。
『おいこら!何度注意したら分かるんだ!お前まだ未成年だろ!!』
美しい瞳に吸い込まれていた時間を動かしたのは、後方からの施設長の怒鳴り声だった。
その声で、彼はふいっと顔を背けた。
そして、平然と燻る煙草を口元へ。
淡紅の色っぽい唇のはじにそれを挟み、気怠げに前髪を掻き上げながらまた帽子を深く被った。
一々、彼の仕草に惹きつけられてぼうっと惚けて。
そのうちに、背を向けた彼はゴミ袋を手に闇に隠れるように去っていく。
『———ったく、本当どうしようもない奴だ……あれ、三輪社長?大丈夫ですか?』
『……大丈夫、じゃ、ないわ……なにあの子…』
出会った初日は、声すらも聞けなかった。
まあでも、長期戦は覚悟の上。
何がなんでも手に入れたいと血をたぎらせたアタシは、いつの間にか隣に並んでいた施設長の胸倉をぐわっと掴み迫った。
『ていうか、あれで未成年?!ねえ、引き抜いていいかしら!あ、もう他の事務所に所属しちゃってる?!』
『ひ、引き抜く?』
『スカウトよ、スカウト!アタシが直々にスカウトしてんのよ!初めて!』
『え、いや〜あの子にそういうのは無理ですよ…』
『あら、どうして?』
『…何て言ったらいいのか、少し手のかかる子でして…此処で育った子なんですけどね…なんとか高校は卒業できたものの、就職先ですぐに問題起こして即クビ。行くアテもなく、うちで雇う形でそのまま面倒見てるんです』
はあ、と施設長は溜め息を吐いて『勤務時間以外は殆ど部屋に引き篭ってる、困った奴なんですよ』と苦笑いを浮かべた。
そんな施設長から、彼が去っていった暗がりのほうへと視線を戻す。
地の底のような闇に向かって、ニンマリと笑みをつくった。
『じゃあ、アタシが外の世界へ連れ出すわ』
光ある世界を見たことがない美しき青年。
最高じゃない、もっと輝ける余地がたんまりある。
あの美しさでまだ原石、磨いたらどんな輝きを見せてくれるのだろう。
更なる情熱を燃やしたアタシは、施設長から無理やり彼の連絡先を入手。
こうして彼への猛アタックをはじめたのだ。



