焦がれる吐息





正直、星空も彼のやさしい言葉も、甘やかな熱も夢だったらどうしよう、なんて馬鹿な事を思っていたから嬉しさと安堵で胸がぎゅうぎゅう熱くなる。


「…その、百瀬くんがトイレに行ったあたりから記憶がちょっと…折角の誕生日のお祝いだったのに、私ばかり飲んでしまってすみません」


こそばゆい空気と嫋やかな指先が擽ったくて、伏せた瞳をたじたじとさせれば。

「いいですよ」と、さらりと甘い声が響く。

顔を見ていなかったけれど、やさしく笑っているような声色だった。



「でも一つお願いで、」

「はい?」

「もうすこし一緒に寝坊してください」


そして私の目尻を撫でていた指先は後頭部にまわり、自然に抱き寄せられ、また閉じ込められる。

洗い立てのような柔い香りがつよく鼻腔を蕩し、頬は相変わらず熱くなる。

今日も、禁煙が成功しそうだ。



「……私、抱き枕じゃないです」

「……澄香さんが抱き枕…それはちょっと耐えられる自信がないです」


私の無愛想な照れ隠しに、困ったように返した百瀬くん。耐えられないって……自分で言った冗談に自爆したようで思わず眉はしゅんと下がり落ち込みかけた。そのとき。


束の間、窮屈だった温もりがそっと緩まる。

美しい瞳に覗き込まれ、静かに唇が重なる。

とても短く、けれど心を強く攫ったそれは、朝の空気に溶け込むような穏やかなキスだった。


「ずっと抱き締めてるだけなんて、嫌ですから」


離れてすぐ、桜色の唇はゆったりと弧を描く。

百瀬くんから艶やかな甘い色が薫る。

その色気に惚けているうちに透かさず彼は私を抱きしめ直して、恥ずかしがってる暇を与えてくれなかった。


「一緒に寝坊して、一緒に朝ご飯作りませんか」

「え」

「嫌ですか?」

「……や、じゃない」


頷きたくなるその聞き方は狡い。

やっぱり、あざとい。

けれど、

『……今度、料理教えてください』

ちゃんと覚えててくれた、本当に夢じゃなかった、なんてつい頬がだらしない事になりそうで。

浮かれた心を誤魔化すように彼の胸元に額を擦り付ける。


「……それ、澄香さんの癖ですか」

「くせ?」

「……いや、何でもないです」

「?」


すると、ふう、となにかを堪えるように深い溜め息を吐いた百瀬くんも、私の頭にすりと頬擦りをした。