焦がれる吐息






“お誕生日、おめでとう”


施設で開かれる義務的な誕生日会に参加しなくなったのはいつ頃だったか。自分の部屋で独り淡々と過ごしていれば、気づいたら歳を重ねていた。

誕生日は、書面上では施設に入所した日。生まれた日付さえ不透明な自分は、その言葉の価値なんて分からなかった。

けれど今日、彼女が簡単に覆してくれた。

彼女の言葉も表情も、料理の味も可愛らしい花も、ワインの味、唇の感触も。

自身に焼き付けたこの日を、この幸せを、この先何度も繰り返し思い出して、馬鹿なくらいに噛み締めるだろう。


鼓動が落ち着いた頃にやけに静かな胸元を覗き込めば、長い睫毛は伸びやかに伏せられ無防備な寝顔が晒されている。

もしかしたら、澄香さんはもうとっくに記憶がないかもしれない。でも、


「……俺は、ちゃんと覚えてますから」


星空を眺めて涙を流す姿に、守りたいと強く抱いた想いもちゃんと。

艶美な寝顔に目を細め、細い膝に手を入れて抱き上げた。

彼女が飲み会の日に倒れた時と同じだ。相変わらず軽すぎるその重みに途端に心配になってしまう。

もう、俺以外の人とはお酒を飲まないでほしい。そんな行き場のない束縛心を抱えながら寝室へと運んだ。

カーテンの閉じ目から枕元へと、朧げな月光が儚げに差し込む。

そこへ丁寧に寝かせて、艶めく絹のような髪をやさしく撫でた。


「……好きです。大好きです」


今にも決壊しそうな感情の器から無意識のうちにこぼれ落ちたそれは、夜に虚しく溶け込む。

生まれて初めて口にしてみたその言葉は、胸を熱くはするけれど満たしてはくれない。


「早く、俺のこと欲しがってよ」


身勝手な欲を込めて、微かに寝息を漏らす唇にもう一度触れるだけのキスを落とした。