我慢しようなんて思った自分が馬鹿だった。
「まだ飲み込まないで」
「っ、」
躊躇う余裕もなく、無自覚な美しい唇を塞いだ。それでもなけなしの理性で、壊さないように大切に丁寧に。
「ふ、…んっ」
傍らで、空っぽのグラスがテーブルの下に転がり落ちる。
小さな頭の後ろにくしゃりと手を掻き入れて、狭い口腔内に広がる味を盗むように口づけを深くしていく。
再び味わったそれは、泣きたくなるくらいに酷く甘ったるくて。閉じた目蓋が情けないほどにじわりと熱く膨らむ。
生まれてきて良かった。生きててよかった。
そんな大袈裟な事を本気で思ってるなんて貴女は知らないでしょう?
喜びとか、嬉しさとか、好きとか、そんなチープな言葉では伝えきれない熱くもどかしい感情が咽喉を灼き締め付けてきて、只管に胸が苦しかった。
時折漏れる苦しげな甘い吐息も、胸元を縋るように握り締めてくる綺麗な手も、ぜんぶが、無性に愛おしかった。
余韻を残すようにふっくらとした下唇を吸いながら離れれば、官能的な潤んだ瞳に自分が映る。
「…くる、し」
「気をつけてって、警告はちゃんとしましたよ」
朱色の唇の端、微かに零れ光る濡れた線を指の腹で拭う。
すると、彼女は力が抜け落ちたようにぐったり俺の胸元に倒れ込み。静かにぐりぐりと額を押し付けてくるから、つい笑みが溢れてしまう。
この人はどこまで可愛いんだろう。
微かに上下する華奢な肩を、今更壊れ物のように大切に包み込んで目蓋をそっと閉じた。



