それって、つまり……そう唇が動くよりも先に。
頬を包む彼の指先は流れるように後頭部に潜り込み、驚く暇もなく引き寄せられる。
また抱き締められる、そう思ったのに。
くい、と迫るのは美しい顔。
ちょん、と高い鼻先と私の鼻先が触れる。
彼の表情さえ分からない、吐息がまじわりそうな超至近距離に咄嗟に息を殺し睫毛を伏せた。
すると、桜色の唇が艶やかに動くのが見えて。
「……煙草、吸いたくなってないですか?」
今にも触れそうな唇と唇の間に、脈絡もない唐突な言葉が甘く誘惑的に落とされる。
何故このタイミングでこんな体勢で……?
煙草の事なんてすっかり忘れていたし、触れるか触れないか、その距離ばかりに意識が攫われてしまう。
後頭部に添えられた手は酷くやさしいのに、逃げる事もできなくて。
恥ずかしさが限界をむかえてぎゅうと目を瞑り、極力唇が動かないように慎重に、小さく小さく、
「へい、」
き、と零したその刹那、その唇に。
そっと、柔いものがやさしく触れる。
途端に固く閉じていた睫毛は跳ね上がり目を開ければ、百瀬くんはもう表情が分かるほどの距離にいた。
「……平気、って、言ったのに、」
たった短い時間で一体何が起きたのか、状況についていけず。腕の中にあるワインをすっかり温めている私に、百瀬くんは婉然と微笑んだ。
「これは、俺がしたくてしました」
「、」
「あんまり俺を喜ばせると、全部すっ飛ばしたくなっちゃうんで気をつけてください」



