焦がれる吐息




部屋の前で一度深呼吸をしてノックしようとしたところ、先にドアは開かれて、


「待ってました」


どこか嬉しそうに目尻をふやんと垂らした百瀬くんが顔を出した。

きゅうん、とした胸の締め付けを抱えながら「お待たせしました…じゃあ、」と、至って冷静にリビングへと先導しようとして直ぐに立ち止まる。


百瀬くんのせいで、サプライズのハードルが上がってしまっている。

はじまりのやさしい目隠しからドキドキと胸の高鳴りが凄かったし、驚きも増して、正直、凄く良かった……。

振り向いて、百瀬くんを見上げてみる。


また不思議そうにキョトとする瞳を見つめ、どうしようかと眉を垂らして思案した。

百瀬くんの真似をして目隠ししてみるか…でも、背の高い彼にきっと手が上手に届かない。


「澄香さん?いかないんですか?」


———だったら、


「あの、目、瞑ってください」

「目?」

「ん、め」


ぱちぱち瞬きを繰り返す百瀬くんに、頬が熱くなるのを感じながら真剣に頷く。鼓動はもうとっくに爆発寸前だ。

すると彼は執拗に訊いてくる事なく。

ふっと口元を緩めて、静かに色素の薄い睫毛を落とした。

目を瞑った彼を見るのは、朝方まで看病してくれた日以来だった。伏せられた長い睫毛は、相変わらず羽のように伸びやかに影を落としている。

自分でお願いしたくせに、目を閉じたその艶美な顔に恥ずかしくなって目を逸らしてしまいそうになる。


「この後は、どうすれば…?」


一人もたもたしていれば、百瀬くんは目を瞑ったまま愉しそうに唇の端を持ち上げている。

その姿にぽっと頬が燃え上がってしまったけれど大丈夫。私の目がどんなにハートになってしまっても大丈夫、百瀬くんが目を閉じているから。


「じゃあ、失礼します…」


そう、今ならどれだけ緊張して顔が強張っても大丈夫。

だから勇気を出して、おずおずと彼の片手に手を伸ばした。

自分より冷たい体温に触れれば、一度ぴくりと彼が反応する。


「良いって言うまで絶対に開けないでください」と念押しをして、そのまま骨張った長い指先を大切に掬い握り締めた。


「目、瞑ったままで」

「……」

「あの、歩いてくれると助かります」

「……」

「百瀬くん?」


けれど握り締めた指先をくいくい引っ張っても、何故か百瀬くんは全然動いてくれない。




「……このまま、この手引っ張って抱き締めるのはアリですか」

「、何言ってるんですか、ナシです…!」

「すこしも?」

「はやく行きますよ…!」


従順に目を閉じたまま「すみません」とやっぱり愉しそうに笑う百瀬くんは確信犯だ。


む、と顔を顰めてみるも、密かに私のくちびるも少し緩んでしまっていた。