「……禁煙、できるといいわね」
一番の願いを小さな独り言に換えて、画面の中のスミちゃんを愛でるように見つめた。
そのまま、のんびりスワイプして先月のスミちゃんまで遡ったところ、不意に電話がかかってくる。
副社長執行役員、宍戸だ。
見目麗しいスミちゃんで埋め尽くされていた頭の中に、31歳、銀縁眼鏡、ポーカーフェイスな男の顔が割り込むように浮かんで一気にゲンナリ。グラスの中を一気にぐびっと飲み干し、仕方なく応答をタップした。
「なによ〜いま忙しいのよ〜〜」
『申し訳ありません、社長。ラウンジでお寛ぎのところを。』
「……あら、何を怒ってるの…?」
いつになく嫌味たっぷりな宍戸に、思わずボトルに伸びかけていた手が止まる。
機械的で論理的な宍戸は、アタシとは真逆の人間。型にはまった仕事のやり方できっちりと会社を守ってくれているが、だいぶ面倒くさい男だ。小さな型破りひとつでさえ、見逃してくれないから。
「今回はなにもしてないと思うけど…」
そして、いつもその型を破るのは決まって自分なのだが、まったく心当たりがない。
止まっていた手を伸ばし、取り敢えず、とワインを注げば、宍戸はすかさず『…はあ』と機械越しに溜息をかけてくる。
『不躾な質問で恐縮ですが、僕のデスクにしれっと置かれていった契約書、これは一体どういうおつもりでしょうか』
「契約書?」
『社長が連れてきた男との契約書です』
「あーん、そうそう!彼のね〜!」
そういえば宍戸のデスクに置いてきたんだっけ、と思い出したのは美青年とのマネジメント契約書。
やっと口説き落とせたから、彼の気が変わる前にと早々にサインを頂戴した。あとは、宍戸の印で契約成立。晴れて、顔面国宝が我が社の宝になるのだ。
「ほら一応、宍戸に知らん顔で勝手に入所させたら悪いかな〜ってちゃんと置いといたのよ〜」
別に独断で決めても良かったんだけどね〜今回はちゃんとね〜と、意気揚々と話せば、返ってきたのはまたまた深い溜め息。
『そうですね、勝手に締結されなくて良かったです。こんなメチャクチャな契約条件。何ですか、これ。"安定した収入が得られるまで、生活費10割の資金援助を約束する"とは?贔屓もいいところですね。うちは看板俳優にもこんな手厚い待遇はしておりません』
「まあまあ、ケチ臭いこと言わないで少しくらいいいじゃな〜い、皆んなには秘密で、ね?」
『全く良くありません。まだ売れるかどうか、才能さえも不透明な人間でギャンブルでも始める気ですか。明らかに未来投資が過ぎます。大体、社長は———』
もう、ほんとつまらない男。仕事は認めているけれど、もっと軽やかにポップでセクシーに仕事してほしいのが上司の本音だ。
宍戸のお説教を耳に、やれやれ、と頬杖をつきながら思い浮かべたのは、ありったけの未来投資をしたくなるほどの美しい顔。
あの子を見つけたあの瞬間、ズッキューン!!とハートを射抜かれた。今まで数えきれないほどの端正な顔立ち、魅力的な人間を見てきたけれど、表現できない初めての胸の高鳴り、息を忘れてしまうほどの衝撃だった。
むふふと宙を見つめ、夢のような彼とのドラマチックな出会いを頭に咲かせる。



