「スミちゃん今日はどうする?夕飯は〜?」
「流石にケンちゃんの家にお世話になりすぎだから、今日は一人で食べる」
「そんなの気にしなくていいのに〜…香織さんは心配してない?大丈夫?」
「全然」
夕飯を拒否するようになって、開店準備の手伝いもしなくなった。
怒られるかなって思っていたけれど、母親はそれすらも特に何も言わないまま、季節はあっという間にひとつ過ぎ去った。
もしかしたら羽柴と二人きりになれる時間が増えて、喜んでいるのかもしれない。
朝、テーブルに五千円札が一枚置いてあるだけ。羽柴と会わずに済むようになったけれど、母親ともまともに顔を合わせる時間も無くなっていた。
少しずつ、少しずつ、着実に、羽柴という存在が母と私の間にある溝を深めていき、私の心に影を落としていく。
電気一つもついていない、真っ暗な家の窓を見上げて、鼻の奥がツーンと痛くなり下唇を噛み締めた。
人って、電気一つ灯っているか、いないかで、心の温度が変わるんだ。
冷たい秋風に当たりながら、別に知らなくていい事を思い知った。
「(…そういえば、ポスト全然見てなかった…)」
家に入る手前、勧誘のチラシがひらひらとはみ出ているポストが目に入る。
いつもポストをチェックするのは決まって新聞を読む父親だった。だから、お母さんも見るの忘れちゃうんだろうな、なんてぼんやりしながらポストを開けた。
どうせ、チラシだらけだろうと思っていた。
なのに、開けた瞬間ぱらぱらとこぼれ落ちてきたのは同じ形、同じ薄ピンク色をした幾つもの封筒。
足元に落ちたその一つを拾い、訝しげに裏表を見てみても何も書いてない。
気持ち悪いな、と心のどこかで感じながら、でも指先は封を開け、あっさりと中身を見てしまった。
「っ、」
瞬間、思わず叫びそうになった口元を塞ぐ。
その指先が、徐々に震え始める。
[今日も可愛いね]
見覚えのない自分の写真と、真っ白なメモ用紙に書かれた一言。
咄嗟に転びそうになりながら玄関に駆け込む。
そして、震える呼吸を小さく繰り返しながらずるずると座り込んだ。
———大丈夫、冷静に、落ち着いて、
おまじないのように何度も心で唱えて、胸を突き破りそうな鼓動を必死に落ち着かせた。
———大丈夫、冷静に、落ち着いて、
そして、ふるふると震える指先で握り締めたそれをもう一度見た。
玄関の窓から差し込む月明かりが、鋭いナイフのように写真に光差す。
下校途中を隠し撮りしたものか、そこに映るのはケンちゃんらしき学ランの肩を叩いて笑ってる自分だった。



