焦がれる吐息





羽柴という男は、一見爽やかで誠実そうな外見だった。

三十代前半、黒髪短髪、ほんのり焦げた肌、清潔感あるスーツを纏っていても分かるほどの逞しい身体つき。腕にはいつも高級そうなシルバーの腕時計を光らせていた。

母のタイプの男だとすぐに分かった。

その男を見る母の目が、声が、女になっていたからだ。

でも、

「澄香ちゃん?香織さんからはいつも話を聞いていたよ。写真を見せてもらって可愛いなって思ってたけど、実物はもっと可愛いね」

「本当可愛いな〜学校でもモテるでしょ?」

「すーみかちゃんっ、今欲しいものとかない?お兄さんが何でも買ってあげる」

「今日も可愛いね、ずっと見てても飽きないな」


私は好きになれなかった。


羽柴は決まって毎週金曜日、開店一時間前に現れた。

母親は相当気を許しているのか、私が夕飯を食べている途中であっても、どれだけ店の準備が忙しくても特に何も言わず。寧ろ嬉しそうに出迎える。


初めて会った時から、会うたび、会うたび。

羽柴の蛇のような目は必ず、制服を着た私の身体を上から下まで舐め回すようにゆったりと動いていた。


その熱が込められているようなねっとりとした眼差しが、怖かった。いつも軽薄に紡がれる“かわいい”が気持ち悪かった。


それでも勿論、口に出す事は出来なくて。

真っ赤なワイングラス片手に恍惚とした様子で見てくるその瞳から逃げるように、急いでご飯を掻きこむようになった。