焦がれる吐息




ふうーっと臭い煙を吐きながら、煙草片手に母親は口癖のようによく言っていた。

自分はそう言う癖に、父親に不倫され、離婚してから煙草の本数は日を追うごとに増えていたような気もする。

そんな母親の横顔をぼんやり眺めながら、自分は大人になっても絶対に煙草を吸わないと強く心に誓った。

そして、父親のようなクズな男なんかに絶対に引っかからない。



優しくて、一途で、かっこいい男の子と結婚するんだ。



なんて淡くて、愚かな夢をほんのり抱き始めていたのが中学一年の春のことだった。


「もうほんっと泣けちゃう〜スミちゃんが中学生とか泣けちゃう〜!ほら、ここ立って!ポーズ!ポーズ!」

「……恥ずかしいから早く撮ってね」


「ぐへへ、これ動画でーす」

「もお!ケンちゃん!」

「ごめんごめーん!はい今度こそ!」


高校の学ランを着て、ニヤニヤとビデオカメラを構えてくれるケンちゃん。自分も学校があるのに、何かと理由をつけて抜け出して私の面倒を見てくれる。

その日も、春からスナックの店を始めた忙しい母親に代わって入学式に付き添ってくれていた。

酒好きの母親は、学生時代にも水商売を経験していた事もあって、開店準備を生き生きと楽しそうにしていた。


酒に煙草、スナックなんて、きっと世間から見たら印象は良くないのかもしれない。けれど、私は周りからどう見られようが気にしていなかった。

家に籠って、出ていった父親の悪口を紫煙とともに吐き続ける姿を見ているよりずっと良かった。


当たり前のようにまたやり直せると思っていたし、母親を応援したいと心から思っていた。


「スミちゃん、今日うちで一緒にお祝いする?」

「ううん、今日はお母さんが店で夕飯用意してくれるって。暫くはそんな感じかも」

「あ〜お店って夜から営業だもんねえ〜じゃあご飯食べたらさ、うち来なさいな!」


「ん、ありがとケンちゃん」

「ふふ、スミたんと漫画読むのたのしみ〜あ、この間ね、すっごい胸キュンなやつ見つけて———」


当時、ケンちゃんもケンちゃんで両親とうまくいっていなかった。だから互いに寄り添うように、寂しさを埋めるように一緒にいたような気もする。


「(…今日の夕飯何かな…お寿司がいいなあ…)」


近所のケンちゃんと一旦バイバイした後。入学のお祝いを頭に咲かせながら、母親のお店へと向かった。