焦がれる吐息





「やっぱり脱毛するべきね」と鏡に夢中なケンちゃんを視界の隅に、灰皿に煙草を押しつける。



「そうしな、じゃ、おやすみ」

「ええっ、まって、立ち上がらないでちょっとまって!話聞いてくれるんでしょ?!」

「…や、ねむい」

「いやんスミちゃんかわいい〜食べちゃいたい」

「やめて」

「んもお、そのお顔でその塩っぷりがずるいのよお〜ツンツンお色気美女たまらないわ〜」


「はい、スミちゃんちゅう〜」と唇をタコのようにして、とつぜん茶番劇を始めるほろ酔いのケンちゃんにもう一度「やめて」と淡々と返した。


今日は一段と褒めて、もちあげて、デレてくる。



バイトから帰宅後、自宅で一人酒を楽しんでいるところをケンちゃんが押しかけてきてサシが始まるのは毎週末のこと。

マシンガントークに付き合うのもいつものこと。

乙女の悩みとやらも、いつものこと。

でも、いつもだったらすぐに自分から話し始めるのに。

これは何かあるな、と、長年の付き合い歴が勘を働かせる。


「はあ…」と、今度は私が静かな溜め息を吐きながら、ついついまた煙草に手が伸びてしまったから仕方なく座り直した。




「で、ほんとなに」



問いかけた瞬間、途端にソファーに正座をしてピンと背筋を正すケンちゃん。



「……あのですね、澄香にお願いが…」



大きな身体を窮屈そうに萎縮させる姿を前に、咥えたばかりの煙草を静かにおろす。

ケンちゃんが私の名前を"澄香"と、ちゃんと呼ぶときは真面目な話のとき。

改まったそれに、視線だけを返した。



「ほらこの前、素晴らしい美青年をスカウトしたって言ったじゃない?」

「……美青年…?」

「原石よ、原石!」

「なにそれ」

「んもー連絡したじゃない!」


眠気とアルコールでとろんと重い目蓋で、幾度か瞬きだけを繰り返して。

「あー、うん」と朧げな記憶を呼び覚ます。