焦がれる吐息






素直に従うのが照れ臭くて、すん、と澄ました可愛くない顔で近づく。


それでも百瀬くんは嬉しそうに口端をあげ、金の髪をさらりと揺らした。


「俺の部屋、来てもらっていいですか?」

「え、百瀬くんの部屋?」

「ん、俺の部屋」

とても円やかに微笑む彼に固まっている間に、手が優しく攫われる。

百瀬くんは、私の指先を握って柔く引っ張った。そのまま流れるように廊下へと連れ出される。


また簡単に、きゅん、と胸が締め付けられる。

何故だか今日の百瀬くんは、きらきらのフィルターがかかっているのかと思うほどに、こちらこそ一々可愛くて、一々かっこよくて、一々煌めいて見えて。

綿飴のような甘い感情がふわふわ湧き起こって仕方ない。



「そういえば、煙草吸いたくなってないですか?」

「……別に、平気です」



百瀬くんは、どうしてこんなにも平常を保てるのだろう。私ばかり緊張して、どきどきして、過剰に意識している。

あっという間に彼の部屋の前まで辿り着き、乾いた喉をこくりと動かす。

百瀬くんは「なんだ」とちいさく零して手を離すと、人差し指の背で私の頬をふわっと一撫でした。


「ちょっと残念です」

「、……またそうやって揶揄う」


言うまでもなく、触れられた所から全身に広がるように熱くなる。

何が、残念なのだろうか。私の気を紛らわせられないのが……?深く考えてしまうと余計に熱が上がりそうで、む、と顔を顰めて精一杯に抗う。

すると彼は唇の片端を持ち上げて艶美な笑みを浮かべると、どうしてか私の後ろに立った。


「澄香さんを揶揄った事なんて、一度もないです」

「……何、してるんですか」

「本気なこと。」


背後から艶気を含んだ声で鼓膜を擽られる。

同時、ふわり、両目が隠される。

相変わらず冷んやりとした片掌に、肩が跳ねた。


「すみません、怖かったり嫌だったらすぐに言ってください」


そう囁いて、彼がカチャリとドアを開けたのが分かった。

長い指の隙間から僅かに覗くその先は、真っ暗だった。

けれど不思議と恐怖心はなくて、ときめきの心音ばかり異様に亢進する。

百瀬くんの香り、優しい手のひら、声ばかりに気を取られる。


「そのまま三歩くらい進めますか?」

「(……三歩…?)」


素直に頷き、一歩踏み出す。


……いち…に…さん……


心の中で数えたところで止まると、静かに彼の手が下ろされた。


瞬間、頭上を見上げ、息を呑む。

真っ暗な天井一面に広がるのは無数の光———まるで幾つもの星々が美しく煌めく、澄んだ夜空がそこにはあった。