焦がれる吐息





百瀬くんは何故か眼ばかりパチパチさせるから、落ち着かない気分を掻き立てられる。


流石にタイミングが良すぎて怪しいか、それでも「(百瀬くんが帰ってきた音で反射的にダッシュしてました)」なんて、死ぬほど恥ずかしい自分は絶対にバレたくなくて。


「玄関のほこり気になって」と、苦し紛れを吐こうとすれば。

百瀬くんはマウンテンパーカーの音をカサっと鳴らして漸く動く。顎元まで閉めてあるファスナーを摘んで、その中に口元を埋めた。


前にも見たような仕草だ。確か、私が彼に初めて「おかえりなさい」とつい言ってしまった時も同じように……。


「……た、」

「?」


静かな廊下に落とされたのは、とても小さな一音だった。空耳かと疑うくらいに小さなその声は、隠された彼の口元から確かに零れ落ちた。

百瀬くんは恥ずかしそうに伏せた睫毛をそよそよと揺らし、襟をさらに引き上げる。


「……ただいま、です」


とても簡単な言葉なのに、まるで初めて口にしたようにぎこちなく頼りなく。照れたように紡いだ百瀬くん。金の髪から覗く耳は、ほんのり桃色に染まっている。

透かさず、きゅんっと、胸がくすぐられて。



「……うん、おかえり、です」


……かわいいな、とか。

なんか、こういうやり取りいいな、とか。


やっぱり死ぬほど恥ずかしい感情がぽわんと勝手に浮かんできて、伝染したように私の耳もじわっと熱くなった。