焦がれる吐息




いまの冷蔵庫の中は、大好きなビールが奥に追いやられてしまうくらいに、普段は絶対に飲まない色んな味のジュースや、デパ地下で買った豪華なオードブルが準備万端に詰め込まれている。


そして隠すように隅に大切にしまってあるのは、美しく澄んだ水色のワインボトル。

珍しい色をしたそのお酒は、施設の帰りに偶々立ち寄ったデパートで、偶々一目惚れしたものだった。

甘くて誰でも飲みやすい味らしく、オレンジジュースや炭酸ジュース、割り方によって色も変化して見た目も楽しめる、なんて。

店員さんからカクテルレシピを渡され、熱烈に販促されて本当に“偶々”、断れなくて致し方なく買ったものだ。


決して「誕生日や贈り物におすすめですよ〜」なんて言葉に食いついたからではないし。

誰かさんの瞳の色に似ているな、とか。

20歳のお祝いしてあげたいな、とか。


「(……そんな事思ってないし、別に)」


バンッと冷蔵庫をしめて、眉をきゅと垂らす。

もう一度時計に視線が向いた、その時。

玄関の方からカチャカチャと微かな音がした。

何かを考えるよりも先に身体が反応して、思わずぱたぱたと駆け出す。


リビングの扉を開けて、廊下を走って……。

でもすぐに、ハッと我にかえる。


「(いや、何してるんだ私)」


まるで出迎えようとしている自分に、猛烈に恥ずかしさが込み上げて。

急いでリビングに戻ろうとするも、目の前のドアはもうカチャン…と解錠音を鳴らして開かれていく。


「(やばいはずいやばい)」


慌てて、バッ!バッ!と左右を見回して、咄嗟に目についたものを急いで引っ掴む。

どっどっどっ、と慌てる鼓動をすぐそばに。見据えるドアは静かに開かれていき、俯いた美しい顔が現れる。

彼は玄関に入りながらゆったりと長い睫毛を上げ、ぴくんっと驚いたように固まった。



「……あ、えと、おかえりなさい…」



瞳を大きく丸めて立ち竦む百瀬くんに、“ 掃除してました”を前面にアピールするようにハンディモップを両手でぎゅうっと握りしめた。