心の中で彼を浮かべるだけで、泣きそうになった。鼻の奥がツンと痛くてたまらない。
気を抜けば震えてしまいそうな唇を動かそうとして、寸前でキュと引き結び言葉を呑み込む。
いつから自分はこんなにも臆病になったのだろう。
でも、彼に関わることだったら、どんなに臆病でもいいから慎重になりたかった。
間違っても彼を傷つけるような道には、進みたくない。
いつだって私の足を踏み止めるのは、煙るような長い睫毛が陰を落とす切なげな横顔だから。
百瀬くんのことは、ちゃんと百瀬くんの口から聞かないと駄目な気がした。
不意に、さわっと、冷たい秋風が自分の髪を攫う。
もう一度ケイトの後ろを見遣れば、窓が開いてるのか、白色のカーテンが大きく広がり靡く。
一瞬だけ覗いた窓の向こうは、眩しい園庭が広がっていた。
確信を得る前に、そっと、彼の秘密に蓋をするようにそこから目を背く。
そして引き結んだ唇を小さく綻ばせて、ぷくぷくのほっぺに手を伸ばした。
「……さっきから言ってる好きな人って、私?」
ちいさく柔らかな頬を包み込み親指で撫でれば、ケイトは照れたようにはにかんだ。
「ふふ、せかいで2番にかっこよくなったらちゃんというからね?」
「……そっか」
“せかいで1番かっこいいおとこになって、スキなひとにこくはくする”
“”今までの全てを覆して、どうしても欲しいんです。その人が”
重なるときめきに、胸が、切なく熱くなる。
……しーちゃんが、その大きな出窓から私を見つけてくれていたらいいのに。
スキな人が、欲しい人が、私だったら———
そんな図々しい祈りを密かに咲かせて、ケイトに「そろそろ戻ろう」と目を細めた。



