事務室、お遊戯室、談話室……いつも幼児組と遊ぶ部屋や、小学生組と戯れる馴染みの部屋を通り過ぎるたびに、鼓動は痛いほどに速くなる。
どきどき、胸が張り詰めていく。
「まだいるかな〜もうかえっちゃったかな〜」
「戻ろう、ケイト」
「あのね、スミちゃんだったらね、しーちゃんもだいじょうぶだとおもうんだ〜」
おっとりと紡がれた、何か含みを持たせた言葉。それに更なる戸惑いの渦が巻いた時。
ケイトは繋ぐ手をぎゅと強くして「こっちこっちー!」と駆け出した。一緒に駆け出す頭の中でも、どうしようと、情けない言葉がくるくる駆け回る。
「ほら!あそこだよー!」
そして、トコトコ走りながら小さな人差し指があがった。
その指差す方は、今まで進んだことのない施設の一番奥、突き当たりを曲がったところ。
一つの、色褪せた木製のドアがあった。
一歩、二歩、三歩……、手を繋ぎそのドアに近付く足は、まるで雲の上を歩いているように心許なかった。
目の前に来ても、外から見た時と同じ。
やっぱり、まるでこの場所だけ別世界のような、孤立しているような。胸がツンとする寂寥感が滲むドアに、小さなクリームパンのような拳が躊躇なく伸びる。
「あのね、しーちゃんにも、ぼくのすきなひと、こんどしょうかいするって約束してたんだ」
照れ臭そうにもう一度キュと手を握り直してくるケイトに、手汗が滲む手で同じくキュと返した。
「こんこんっ」
響くのは、湿っぽい空気とは正反対な晴れた声。
けれど、すぐに場はシンと静まり返る。
「やっぱりかえっちゃったかなあ?」
「ほら、鬼に見つかる前にもう戻ろう」
不満げにくちびるを尖らせるケイトの頭を撫でて、誰も出てくる気配のないそのドアに潔く背を向けた。
無意識のうちに止まっていた息をホッと吐く。
すると、透かさずカチャリと音が響く。
弾かれるように振り向けば、ドアノブには、さっきまでクリームパンのように丸まっていた小さな手が。
「、ケイト、なに勝手に、」
「しーちゃーん?いないの〜?すきなひと、つれてきたよ〜」
慌てて止めに入る手は虚しく空振り、ケイトは大胆にドアを開けてしまう。
瞬間、ぴた、と身体が固まった。



