焦がれる吐息





そっと、ケイトを抱き締める腕の力を解いた。

そのまま視線は、ゆっくりと施設の一角へと流れる。

園庭が広く見渡せそうな位置にある大きな出窓、そこは以前、小さな人差し指が教えてくれた〝しーちゃん〟がずっと住んでいたという一室。

今日もその場所だけは、賑やかな園庭からは切り離されたように影になり仄暗い。

初めて見た時と同じ、心に息詰まるような切なさを覚えるほどに侘しい雰囲気が漂っていた。


「……しーちゃんって、」


その寂寥を瞳に、声が、思いの外たよりなく掠れた。

もしかして、いやまさか、そんな言葉が鼓動と一緒にぐるぐると自分の中に巡り響く。

頭のすみのすみでは次の言葉がちゃんと浮かんでいるのに、直視することを躊躇って、喉が張り付いて、続きがなかなか出てこない。

いま自分が開けようとしているものが、ただの空っぽな箱なのか、宝箱なのか、それともパンドラの箱なのか、分からなくて怖気付く。


中途半端に言葉を止める私に、ケイトは不思議そうに無垢な瞳を丸めて、それから眉をぴょんと跳ね上げた。


「そうだ!スミちゃんにも、しーちゃんしょうかいしてあげる!」

「え、いや、」

「きょうね、しーちゃんおやすみの日だけど、おへやのかたづけにきてるんだ〜」


ぐん!と小さな手に掴み引っ張られ、心臓がぱたぱた慌てふためく。突拍子もなく、ぐいぐいと施設の中へと行こうとするケイトと小さな綱引きがはじまった。


「まって、かくれんぼは?」

「ふふ、みつからないようにいこうね〜」

「ダメだよ、そんな、」

「だいじょーぶっ、ぼくにまかせてね〜」

「いやでも、しーちゃんも突然困っちゃうし、」

「だいじょーぶだいじょーぶっ!」


へへんと胸を張る愛らしい横顔に、困ったと頭を抱える時間も与えてもらえず。


小さな身体からは想像もつかなかった強い力で、あっという間に施設の中へと連れられてしまった。