𓂃◌𓈒𓐍
「———さすがに手荒すぎたかしら」
一滴も零れ落ちていないルビー色の液体を、グラスの中でくるりと躍らせる。
……でも、これくらい強引にいかないといつまで経ってもあの子の時間は進まないものね。
オーソドックスな味わいのワインを嗜みつつ、テーブルに置いていた愛用の手帳に手を伸ばす。
表紙を開いてすぐ、挟んでいた数枚の写真をいつものようにぼんやり眺めた。
もう何年もずっと、大切に持ち歩いている宝物だ。
そのどれにも、この世の何よりも大切な女の子のまだあどけない姿が写っている。
一枚は、ぷくぷくのほっぺをふにゃーっともちあげて、天使のような笑みを浮かべる年少さん。
小さな身体には大きすぎる大人のエプロンを見に纏って、ご満悦な様子。
『ねーケンちゃん、おままごとしよお?』
『ケンちゃんはね、おねえさんね〜わたしはおかあさんよお〜』
そっと、一枚捲る。次は、黒いランドセルを背負い屈託のない笑顔でピースをつくる写真。
『わたしもケンちゃんと同じ色にしたの!黒色は男の子だけのものじゃないでしょ〜?』
あの頃と同じように、胸がきゅうっと熱くなる。
写真を見返すたびにいつも蘇るのは、スミちゃんのまっすぐで純粋で、温もりある言葉だった。
自分の中で感じる性への違和感、男らしさを求めてくる必死な両親、周囲の視線、息苦しい日々の中で、数えきれないくらい救われた。
スミちゃんは、いつだってアタシの心をふんわりと柔らかな愛で包み込んでくれたのだ。
だからこそ、たまらなく大切で、いつも心配で。
絶対に幸せになってほしいと、強く祈ってる。



