焦がれる吐息





涼しい顔をしていたけれど百瀬くん自身は、禁煙できているのだろうか。


この三日間、変わらず夜遅くまで出勤している彼と、私も卒論やバイトで忙しくて、まともに顔を合わせていなかった。

それでも、脳内でちゃんと気を紛らわせてくるのだから彼の影響力はやっぱり恐ろしい。


「ふふ、スミちゃんのぎゅううれしい〜」

「私も。」


ぎゅうぎゅう、とほっぺをくっつけながら抱き締め返してくれる可愛い力に、ずっと頭を悩ましてくる熱から少しだけ解放される。

そんなケイトからは、陽の光のような柔らかな香りがした。煙草をやめたから、嗅覚が鋭敏になっているのかもしれない。


「うーん?スミちゃん、においもしーちゃんにそっくりだ〜」

「……におい?」

「せっけんみたいなかわいいにおい〜」


はしゃぐ天使のような声が耳元を擽ぐる。

ケイトの口からは、また〝しーちゃん〟

同じタイミングで禁煙なんて、そんな偶然もあるんだなとしか思わなかった。
 
でも、匂いもそっくり、だなんて。



“そのまま俺の使ってていいですよ、ずっと”


困惑する脳裏に浮かぶのは、簡単に私の胸を擽ぐる艶やかな声。緊張しながらこっそり借り続けているボディソープ、彼と同じ石鹸の香りを纏う恥ずかしさと、ほんのちょっぴり浮ついた自分の心。


そういえば、今更だけれど、



「(しーちゃんも百瀬くんも、調理のお仕事…)」



胸が、とくとく、少しずつ早鐘を打ち始める。