———あの時、彼に自分の話をするつもりはなかった。
私は、当時の出来事を口にする事すら気持ち悪くて、現実と向き合うのが怖くて、どんなに親しい人でも煙草を吸い始めた頃や、自分の過去は誰にも少しだって話した事がなかった。
知っているケンちゃんとでさえ、話したくない。
だから〝いつから吸ってるか?〟なんて些細な質問でも普段だったら息苦しくなって、「さあ、忘れた」なんて適当に流していた。
……筈だったのに。
なかなか寝つけなかったあの夜。
底のような夜空を見上げながら、何となく「(百瀬くんまだ帰ってこないかな)」なんて口には絶対にできない事を思っていれば、彼は当たり前のように隣に並んでくれて。
仕事終わり、肌寒い深夜、どんなに虚しい空の下でもときめきを容赦なく与えてくる相変わらずな百瀬くんに、気づいたら、自然と自分の弱味の欠けらを零していた。
正直、そのあと更に深掘りされるかと思っていた。
だって、中学三年で煙草なんてちょっとグレているどころの話ではない。
どう思われたか、軽蔑されたかな、なんて紫煙を燻らせながら身構えていた。
それが突然、ほぼ強引な形で禁煙を始めることになるなんて。百瀬くんの言動は、いつも想像の遥か斜め上をいく。



