焦がれる吐息




「……また風邪ひきますよ」

「、吃驚した…」


夜の深い青を映す綺麗な髪を靡かせて、彼女は大きな瞳をさらに丸くする。

「百瀬くんっていつも急……」なんて、小さな唇をかわいく尖らせるいつも通りの彼女に、胸のつかえがほんの少し解れる。

何食わぬ顔で隣に並んで、ポケットから煙草を取り出した。火を灯そうとすれば、ライターが無いことに気づく。急いで帰ってきたから、調理場においてきたのかもしれない。

「……ん」

すると伏せていた視界に、細い指先に握られたライターが映った。

視線を上げれば、澄香さんは唇の端に煙草を挟み、もう一度「ん」と言って手を翳して火を灯してくれる。

たった一つの行動。彼女にとってはなんて事ない仕草。

それでも、自分でも呆れるほどに胸が高鳴る。

体の中で緊張が満ち溢れる。


彼女の一瞬一瞬が、酷く妖麗で。

どこを切り取っても、気を抜けば見惚れてしまいそうだった。


「……ありがとうございます」

煙草を咥え、夜風に揺れる火に近づく。

その時、伏せた瞳をこっそり上げた。

すぐ間近に迫るのは、ライターの明かりによって朱と金色に儚く染まる美しい顔。

伸びやかにしなる睫毛は、ゆらゆらと影を落とす。

真っ暗な闇の中、淡く優しげに浮かぶ彼女に透かさず胸のあたりが痛くなる。

途端に無性に触れたくなって、静かに手を伸ばした。

火を灯してくれる彼女の両手に自分の両手を重ねて、大切に包み込む。


そして態と、そっと引き寄せる。

悴む指先に、彼女の体温がいつもよりも温かく沁みる。

全然物足りない想いと一緒に一吸いして、ゆっくりとベランダの外へと煙を吐いた。

視線を感じて横を向けば、彼女はこちらを睨んでから、ぷい、とそっぽ向く。

その横顔は、夜に紛れて確かではないけれど、何となく、赤く染まっているような気がして。どうしたって可愛いしか出てこなくて、もっと触れたくなってしまう。