𓂃𓈒𓏸 𓂃◌𓈒𓐍
磨りガラスに映る淡い橙色の光を目に、今日もまた自然と肩の力が抜けていく。
死んでいた表情が、息を吹き返したようにほぐれていく。
リビングへと足を踏み入れれば、案の定、ソファーの脇、スタンドライトが点いている。どんなに帰りが深夜遅くとも、この優しい光は必ず灯っていた。
それがどれほど嬉しくて、どれほど心温まっているか。
この灯りを見るたびに、毎回、どうしてか目蓋が熱く膨らんで、淡い光が滲んでしまう。
なんて言ったら、貴女は大袈裟だと笑うだろうか。
「(……流石に寝たか)」
影を落とす置き時計は、寂しそうに二時三十分を指していた。目にかかりそうな伸びた前髪を掻き上げて、静かに細い歎息を漏らす。
「(……少しでも、会いたかった)」
一緒に住んでるのに、朝起きれば会えるのに、たった少しの間でも存在を感じられないと胸の辺りに隙間を感じてしまうようになった。
彼女に出会う前にはなかった、どうにもやりきれない、寂しいという穴ができてしまった。
自分の貪欲さに拍車がかかっていて、苦い笑みを口端に浮かべながらスタンドライトに向かう。
不意に、ふわ、と冷気が頬を掠めた。
辿った先、灯る橙色の光の奥、白色のカーテンが微かにそよいでいる。
勝手に先走る鼓動を感じなら、そのベランダへと続く窓へ近づいた。
彼女のおかげで随分と良くなった指先を、そっと、カーテンへと伸ばす。
静かに開けてみてすぐ。
焦がれていた存在が瞳に触れた瞬間、口元は緩み、どうしても胸が弾んでしまう。
たった今感じていた穴が、優しく塞がれてゆく。
と、直ぐに網戸を開けようとして、思わずその指先は止まる。
美しい髪が流麗に広がる小さな背中を見つめ、急に息詰まるような切なさが迫り上がった。
煙草を吸いながら、柵に腕を預け凭れ掛かっている彼女。
朧げな紫煙が吸い込まれていく夜空を静かに仰ぎ見るその姿は、どこかに消えていってしまいそうなほどに、侘しく、酷く危うく見える。
まるでそれは、コンビニ前で見つけた時と同じ、爛れた夕焼け空に震えていた姿、そして黒い雨空の下、必死でライターを灯そうとしていた姿と重なった。



