もう一度、彼の腕をぎゅとした。
すると、彼は私に顔を埋めたまま、また深いため息吐く。首筋に触れるその熱い吐息に、大袈裟に肩が跳ねる。
「……もう何なんですか」
その刹那、ふわりと手が掴み引っ張られて、ぐるんと視界がまわった。
見開いた瞳に、揺れる青い瞳が重なる。
突然、強制的に向かい合った状態。
久しぶりに顔を合わせた百瀬くんは、眉をきゅと寄せ、想像以上に悲痛な面持ちをしていた。
「百瀬くん、」と。
意味もなく、頼りない声をつい漏らせば、羽のような睫毛が静かに伏せられる。
儚げな陰影を育む彼は、力のない笑みを薄らと唇にのせた。
「……一々、可愛くて、一々煽ってきて…いちいち、乱してくる」
「…これ以上堕ちることが出来ないって思ってても、次から次へと堕としてくる」
振り絞るように雫のような声を零して、そうして、そらしていた青い瞳を再び上げる。
彼は切なげに眉をひそめさえして、ひたむきに私を見つめた。
「……お願いだから、大人しくしててください」
困惑を示す私の顔に、繊麗な指先が触れる。
勘違いだとは言えないほどに、優しく、まるで愛おしむように目尻が撫でられる。
「澄香さんにして欲しいことは一つです。」
百瀬くんは縋るような瞳に私を映して。
「俺を、男として見てください」
「男として、興味もって」
強調するように、私に言い聞かせるように静かに囁いた。
瞬時に頬が燃えるように熱くなって、逃げるように俯こうとすれば。
目尻を撫でていた指先が、私の顎先に流れるように落ちてくる。
ほっそりとした指先を優しく添えられ、逃れる事を阻まれる。
「俺は、深い意味しかないです。」
「、」
「今度は伝わりましたか?伝わらないならもう一度、」
妖美な唇がまた動くのを、こくこくと、必死で頷いて止める。あざとく首を傾ける意地悪で質の悪い百瀬くんを、じわと滲む視界で睨みあげる。
羞恥と訳の分からないときめきで、涙腺も心臓も胸も熱くて膨らんでそのまま爆発してしまいそうだった。
そんな私を瞳に閉じ込めたまま、彼は優しげに目を細めて。顎先に添えた指先を、今度はそっと私の頸に差し込む。
「ん、じゃあ、あともう少し」
そして丁寧に、嫋やかに、私を抱き寄せる。
呟くように言われてから、全然“もう少し”じゃない時間、百瀬くんに抱き締められる。
その間、彼に気づかれないように、必死で瞼をぎゅうぎゅうと閉じていた。
もう、きっと、たぶん、絶対。
誤魔化せないくらいに、私の目がはーとになってしまっていたから。



