「……擽った、い、です」
「だったら、大人しくしててください」
解こうとしていた腕は元通り。
私の頭に、百瀬くんはすりと頬を擦り寄せてくるから咄嗟に深く俯いた。
床に散らばる白い封筒と、その中身を目にして口角がしゅんと下がる。
「……あの、何か怒ってますか」
思わず逞しい腕を握り締めた。
彼の纏う空気が冷ややかでいて、甘く。優しげでいて、怒っているようにも感じる。
すると、さらりと頬を撫でてきたのは繊細な金の髪。彼は深く項垂れるようにして更に寄りかかってくるから肩を竦める。
「そんな、可愛いものじゃないです」
ひとつ、静寂をおいて。
予想もしていなかった酷く弱々しい声が、煩い鼓動の狭間に零れ落ちてくる。
「……もっと穢くて醜い。こんな感情、一生知りたくなかったのに」
この状況も、彼の言葉の意味もうまく理解はできない。
けれど、やっぱり彼が余りにも苦しそうで。怒っているでもなく、弱っていて。
どうしたらいいのか眉を寄せ、伏せた睫毛をいっぱいいっぱいに揺らした。
慣れない頭を、精一杯に働かせてみた。
「……すみません、こういう状況、初めてで…」
たぶん、アレルギーを発症しているのではないらしく。男性経験皆無の私は、百瀬くんをどう助けてあげたらいいのか分からない。
ただ、
「……私が、百瀬くんにしてあげられることは何ですか?」
もし、私に出来ることがあったら。
百瀬くんにだったら何でもしてあげたいという、恥ずかしい気持ちだけは、いま分かってしまう。



