焦がれる吐息




途端、ケンちゃんの騒がしい声は消えた。

氷を張ったような静けさの中、カタンと小さな音だけが響く。通話を切ったのだろうか、すぐそばのカウンターにスマホを置いた音のようだった。

けれど、目元は覆われたまま。

今度は手紙を持つ自分の指先に、彼の冷たい指先が添えるようにして触れる。

視界を失っているせいで、いつも以上に神経が研ぎ澄まされ、自分の鼓動、彼の熱、感じるもの全てに敏感になってしまう。

過剰に、ドキドキしてしまう。


「百瀬くん…?」


急にどうしたのだろうか、気持ち悪くないのだろうか、戸惑いの声を漸く出せた時。

耳に触れるか触れないかの距離、は、と短く乾いた笑声が鼓膜を突く。

そして、息つく間もなく手紙が抜き取られる。

直ぐに足元付近でカサッと音が鳴り、それが落とされたのだと分かった。




「やっぱり3分。いやそれ以上」



ぱっ、と急に視界が明るくなった。

かと思えば、覆い被さるようにして、強く抱き締められる。先程と同じ後ろから、しかし背中から感じる彼の雰囲気が全く違う。



「俺の気が済むまで付き合ってください」

「な、」

「澄香さんのせいで感情ぐっちゃぐちゃで、頭どうにかなりそうなんで」




彼にしては珍しく、荒々しい言葉。

裏腹に、不思議なほどに落ち着いた声だった。


でも惑う瞳を伏せたその先で、心が震える。

視界に入るのは、私の胸元で自身の片腕を握り締める百瀬くんの手の甲。

それは、筋がはっきりと浮き出ていて微かに震えている。

感情を押し殺すように、痛そうなほどに力が込められている。