焦がれる吐息





『……スミちゃん、さっき言ってた封筒いま手元にある?』

「宍戸さんから預かったの?あるけど」

『今すぐ開けてもらえる?』

「え、だってこれケンちゃんの、」

『いいから』


ぴしゃりと言葉を遮る、珍しいケンちゃんの強い語気に口が窄む。

唯ならぬオーラが通話でも伝わってきて、空いている手をおずおずと封筒に伸ばした。


『たった今ね、宍戸と仕事の電話してたの。だからアタシ、電話を切る前に一言「帰国したら手紙を大切に拝読します、はーと」って律儀に言ってあげたの』

「うん」

『そしたら宍戸「社長に手紙を渡した覚えは一切ございません」って半ギレで電話切りやがって。もう恥ずかしい〜勘違いだったの!』

「え?」

『それでね、まさかのまさかで嫌な予感がして。その中身によっては、アタシは宍戸を殺めないといけなくなるかもって』

「殺めるって、何物騒なこと…」

『兎に角、すぐ開けてみて!今から飛行機のチケット取らなきゃいけないかもしれないの!』


荒ぶったケンちゃんの声に圧倒されて、ひとつも理解できないまま言われた通りに封を開けた。

そっと中身を引き出せば、一番先に目につくのは淡いピンク色の一筆箋。


「(……この度はお受け取りくださりありがとうございます。是非、澄香様とご一緒に———)」




ふわりと、急に目の前が真っ暗になる。

流れるような達筆な字を心の中で追いかけている途中だった。

目元を優しく覆うのは、冷んやりとした手のひらの感覚。鼻腔を擽るのは爽やかなフィグ、私があげたハンドクリームの香りだった。


「(……百瀬くん…?)」


ことん、と。驚きで落としてしまったうさぎが、床に鼻をぶつけたような音がする。

背後から目隠しされていると自覚したとき『スミちゃん見た?どうだった?!』とケンちゃんの声に肩が跳ねる。

すると、今度はスマホがすうっと抜き取られていくのが分かった。



「———今、澄香さんと話してるのは俺なんで」


いつもよりも明らかに、低く、冷たく。

恐ろしく艶やかな声が、真っ暗な眼界を彩る。