私はこんなにも、もどかしさを抱えてるのに、百瀬くんはただ静かにテレビを見続ける。
どれだけこそばゆい言葉をくれても、やっぱり何を考えてるのか些とも分からない。
うじうじする女は嫌いなのに、ケンちゃんの言う通り自分が本当にそうなってしまったようで。そんな自身に苛々して、残りのビールを呷る。
もうロング缶でもおかわりしてしまおうかなと、切なさをやさぐれモードに切り替えようとした時だった。
「……澄香さんは、好きな有名人とかいるんですか?」
徐に、静かに問いかけてきた百瀬くん。
謎を秘めた青い瞳に、きょとんとした間抜けな自分が映る。
「……好きな有名人…?」
「俳優とか、歌手とか」
「……んー」
聞かれるとは予想もしていなかった質問に、空き缶をガラステーブルに置いて真剣に考えてみる。
だけれど、全然思いつかない。
思えば学生時代、女子高ということもあってか、周りは流行りのボーイズグループや男性アイドルに夢中になっている友達ばかりだった。
放課後は推しの写真や動画を囲むのが当たり前、でもそんな熱狂的な姿を、自分は遠目で見ているだけだった。
「特にいないです。あ、ガールズグループのMVを見るのは好きです」
「男では…?」
「興味ないです、全然」
きっぱりと言い放てば、百瀬くんは口角をふにと下げて、どうしてか困惑したような表情をする。
心なしか、長い前髪に隠れた眉も垂れているように見える。
そして、彼はまたテレビの方へと向いた。
「……でも、この人とか、何でも持ってるじゃないですか。人徳も、金も、地位も信頼も」
淡々と紡がれた言葉の先、テレビではちょうど、【恋人にしたい男性有名人ランキング三年連続1位の男に迫る!】という長ったらしいタイトルコーナーをやっていた。
大きなパネルを使って、俳優のプライベート写真や情報を女MCがキャッキャッと紹介している。
高級そうな私物や愛車、立ち上げたばかりだという自分のブランド、仲の良い有名人、そのどれも、きっと誰もが羨ましいと目を輝かせるものばかりだった。
彼は、それをじっと見つめている。
憧れというには仄暗く切なげに、劣等感とはまた程遠い無垢な色をした青が画面の華やかな色に染まる。
何となく、この浮世離れした横顔が、踏み込めない本当の百瀬くんのような気がした。



