「どうぞ」
「ありがとうございます」
先程とはやっぱり何処となく違う、嬉しそうに口端を緩めた彼は、今度はちゃんと血が通っているような表情をして缶ビールを受け取った。
長い指先が、プシュと小気味良い音を立てて缶を開ける。
「(……慣れてる…)」
テレビを見ながら、慣れた調子でビールを飲み始める。
長くしなやかな首に目立つ、大きく隆起した喉仏がごくごくと艶めかしく上下する。
その新鮮な姿を横目でこっそり盗み見ていれば、画面に注がれていた青い瞳が流れるようにこちらに向いた。
缶に唇を添えたまま首を傾げる、そんな百瀬くんはやっぱり何をしてもCMのように映えていた。
そんな彼に一人で馬鹿みたいに、そわそわ、むずむずしながら小さく唇を開いてみる。
「……お酒、よく飲むのかなって」
「んー、ほんと偶にです」
「……ふうん」
「?」
また不思議そうに長い睫毛を見せつけてくる彼から視線を逸らして、大して興味のない俳優を見ながらぐびっと苦い味を狭い喉に流し込んだ。
……だめだ。どうしても百瀬くんの事をもっと知りたい欲がむずむずと顔をだしてしまう。
このままだと質問攻めしてしまいそうで、きゅと唇を引き結ぶ。
煙草だってもう吸ってるし、お酒を飲んでいたことには今更驚かない。
仕事仲間と飲み会とか、友達と宅飲みとか、百瀬くんぐらいの男の子だったら普通にあり得る事だ。
もしかしたら、元不良だったりする可能性もあるし。
居酒屋でわいわいしてる姿、着崩した学ランでオラオラしてる姿、いろんな百瀬くんをテレビそっちのけで頭に浮かべてみた。
そして、やっぱり思う。
どれも全然、上手に描けなくて結びつかなくて。
誕生日どころじゃない、私は百瀬くんの事、本当に何も知らないんだなって分かりきった事をまた実感してしまえば、懲りずに胸がぎゅうと鷲掴みされたような痛みを伴った。
聞けば解決する事なのに、また目を逸らされてしまったら、線を引かれてしまったらと思うと、簡単な質問でさえも途端に怖気付いてしまう。
近づいてるようで、全然遠い。
どこまでが百瀬くんにとって踏み込んでいいラインなのか、すごく、難しい。
「(……知りたいって、近づきたいって、言ってくれたくせに)」
心に大切にしまってある言葉を引き出して、むすっと尖る唇を缶に添えた。



